アーリーアダプターとは?イノベーター理論を簡単におさらい

「世の中の流行を司る」などマーケティング用語のひとつとして、ときおり耳にする「アーリーアダプター」という言葉。アーリー=早期にアダプター=取り入れる人という、分かりやすい言葉の意味から、なんとなくは理解している人も多いですが、実際はよく分かっていない人も少なくはないでしょう。
今回は、改めてその言葉の意味、そしてそれを包括する「イノベーター理論」について簡単におさらいしてみようと思います。

よく耳にする「イノベーター理論」とは?

イノベーター理論とは1962年にアメリカのスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱した、イノベーション普及に関する理論で、新商品を購入する人の層を5つに分類したもの。
「アーリーアダプター」はこの中で登場する1つで、2番めに早く取り入れる人たちのこと。

◯イノベーター(Innovators)
最も革新的で、冒険心にあふれた人たち。新しいものに対して積極的に採用をする。

◯アーリーアダプター(Early Adopters)
流行に関する感度が高く、情報収集を自ら行い、積極的に発信も行う。オピニオンリーダーとも呼ばれ、他の層への影響力が非常に大きい。

◯アーリーマジョリティ(Early Majority)
アーリーアダプターに比べると慎重ではあるものの、新しいものへの関心は高い。ブリッジピープルとも呼ばれ、この層に取り入れられると一気に市場が拡大する。

◯レイトマジョリティ(Late Majority)
新しいものに対しての積極性は高くなく、一般的に流行した後に取り入れる層。フォロワーズとも呼ばれる。

◯ラガード(Laggards)
保守的な人。流行などには関心がなく、新しいものがある程度普及し一般化してからでないと取り入れることがない。
イノベーター理論
図表でみるとイノベーターから徐々にラガードに向けて流行が流れていくかのように見えるのですが、実際にはそうではなく、イノベーターたちが飛びついたものでも、アーリーアダプターには採用されずに流行にならないものが多数あります。
例えば、世界初のPDAと言われているアップルのNewtonを実際に触ったことがある人、それどころか存在自体を知っている人がどれほどいるでしょうか。

流行の鍵となる「普及率16%の論理」

イノベーターはさきほどの図表の通り、その数は非常に少くなく、彼らに特徴的なのは、それがどれだけ革新的で、目新しいものであるのかという点で彼らが持ち飛びつくということ。
アーリーアダプターと呼ばれる人が良くネット上などで発言する「これは流行るよ!」というよりは、イノベーターは「これは新しい。やばい」といった感じの声が多く、決して流行をさせたいとまでは考えていません。
しかし、アーリーアダプターの多くは、彼らの支持する後発組に対して影響力があることを自認しているケースも多く、彼らは積極的にイノベーターから情報を得、そして自らが体感し、そして伝播していくことを喜びとしているケースが多いです。
イノベーターからアーリーアダプターたちへ普及することが、マジョリティたちの「流行」につながる分岐点になることから、ロジャース教授は、アーリーアダプターを重要視し「普及率16%の論理」として提唱しています。

SNSの世界では、日本のmixiの流行を例に上げると分かりやすいかもしれません。
かつてmixiは、招待制であったのもあり、イノベーターたちによって非常にクローズドな使われ方をしていました。しかし、やがてアーリーアダプターたちが加入したことによって、SNSとして中身が充実し、アーリーアダプターたちの流行によって、まだSNSという言葉が解っていなかったアーリーマジョリティたちも「mixiって楽しいんでしょ?」と登録する人が一気に増え、大流行となりました。

越えられない壁「キャズム理論」

しかし、ロジャース教授の「普及率16%の理論」に対して、アメリカのマーケティングコンサルタントであるジェフリー・A・ムーア氏は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間には大きなキャズム(溝)があると、ハイテク産業を分析した結果から示しました。これは「キャズム理論」と呼んでいます。

例えばSNSでいえば「Ping」「Beluga」「orkut」と聞いて、そのサービスをあなたは瞬時に思い出せますか?これらは一部の地域を覗いてキャズムを越えられなかったSNSです。

ガジェットの世界を例にあげると、前述したPDAと呼ばれる現在のスマホの原型ともなった端末は、後に様々なメーカーが発売しました。しかしアーリーアダプターたちにとってPDAは、当時マストなガジェットであったにも関わらず、アーリーマジョリティまでには波及しきれず、大流行とまではいきませんでした。

ところが、逆に一時期はアーリーアダプターまでしか流行らずに終わると思われていたinstagramが、現在はそのキャズムを越え大流行しているケースもあります。キャズムは長いスパンで観た時には、越えられないと思っているものも越えられることもあるという、いい例でしょう。
またPDAがスマホに変化し現在は生活必需品とまでになったのは、時代がナローバンドからモバイルブロードバンドに変わり、キャズム越えの後押しになったからでしょう。時代の変化に対する読みのタイミングがハマれば、こうした現象も起きうるということです。

SNSの活用がキャズムを越えやすくしたのか?

TwitterやFacebookといったSNSの大流行で、以前ほどキャズム越えは難しくないと考える人が一部います。
「今までは広告宣伝をするには、多くの費用をかけなければ効果が得られなかったが、現在は無料のブログ、SNSを使って発信することで、お金をかけずに容易に宣伝することが出来るようになった」と思っている人たちです。

この考えに関しては、決して完全否定はできませんが、勘違いであるとも言えるでしょう。なぜなら、影響力のあるインフルエンサーたちであっても、ひとつの流行を生み出すのは至難の技です。

アーリーアダプターたちに製品を試してもらい、その使用感などをブログやSNSで発信してもらうなどの広告施策を頻繁に見かけるようになりましたが、アーリーアダプターの反応=アーリーマジョリティたちの反応につながるわけではありません。

例えば前述したPDAは、アーリーアダプターたちの間では流行しましたが、マジョリティでの流行にはつながりませんでした。
情報感度の高いアーリーアダプターたちの趣味や思考が、マジョリティ層と同じと考えるのは非常に危険だということです。

最近の話題でいえば、一部のアーリーアダプターたちで普及したGoogle+が、かつてのGoogle産SNSと同様に衰退へと向かっています。
アーリーアダプターたちは、自分たちの感度に自信を持っている人も多いため、流行らないのは世間が悪いとすら思っています。

確かに「世間が悪い」という言葉が当てはまるケースも多く観られますが、これが単なる趣味であればよいのですが、ビジネスの面で見た時には非常に危険な思考であることが容易に創造できると思います。

アーリーアダプターであり、アーリーマジョリティであれ

SNSを活用した広告宣伝のここ最近のヒットケースでは、Twitterの企業アカウントでしょうか。SHARPやキングジムといった企業アカウントが、積極的におもしろツイートなどをし、人気を博しています。

ここで「企業アカウントを作ればよいのか」と安易に考えるのは非常に危険です。なぜならアーリーマジョリティたちは、流行に流されやすいからです。

アーリーマジョリティたちが、どういったものに飛びつくのか?という視点と、これから何が流行るのか?というアーリーアダプターとしての両方の感度を持つことが、今後の鍵を握ることでしょう。

Twitterの人気企業アカウントは、かなり前から一部のアーリーアダプター達の間では流行となっていました。しかし、それが本格的な流行になったのはここ最近といってもいいでしょう。
早めにその動きを察知し、そしてどうすればより先行したものより受けるのかを考え、即行動に移す。
イノベーターになり得ることが出来ない人にとっては、これが一番の課題です。

しかし、もしここまで読んだ人が自身をイノベーターでないことに嘆いている人であるなら、決して嘆く必要はありません。なぜなら、イノベーター自身は流行を生み出すのが決して上手くなかったりするからです。
自身が流行を生み出す側に回りたいのであれば、イノベーターを目指すよりも、アーリーマジョリティの心を持ちながら、アーリーアダプターとしてのアンテナの感度をあげることが大事であると、肝に銘じておくべきでしょう。